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実際にかかった時間を記録するメリットとは?

時間通りに進められていますか?

「時間になんか縛られたくない!」

こんな声を聞くことがあります。共感しますが、そうであっても「まずは」時間通りに進めるのが基本です。フレキシブルにタイムスケジュールを変更する──そういうことも、上級編としてはあり得ます。ただし、こういうことは「時間通りに進める力」が根底にないと難しいのです。

「時間」は、長く感じたり短く感じたりしますよね。だから、印象や感覚ではなく、実際の時間を計ることも必要です。

以前、自由で効果的なタイムスケジュールの作り方を「イベントの時間配分の考え方」という記事で紹介しました。こちらも合わせてご参照ください。

「開始の挨拶は3分です」というよくある嘘

セミナーなどに講師として参加する場合、その場の進行をするのは主催者の方々です。3時間枠のセミナーでも、180分すべてを講師が使えるわけではありません。

ですから、具体的な時間の提示がない場合は、「前後に主催者の方からご挨拶や連絡事項などがあるかと思いますが、前後何分くらいになりますか?」と必ずこちらからお尋ねします。たまに、「時間がもったいないので、挨拶は3分もかかりません! 終了もぎりぎりまでで!」みたいに言われることも…。

でも、極端に短い時間で言う方の多くが、実際はもっと長い時間を費やしてしまいます。それに気付いていないだけなのです。

実際にかかった時間を記録するメリット

僕は、時刻の入ったタイムスケジュールを手元に置いておくことが多いですが、複雑な構成の場合は、実際にかかった時間を書き込んで記録しています。色々と便利だからです。以下は、複数の実例をミックスしてつくった架空の(それでもありがちな)例です。

【タイムスケジュール】
13:00 主催者挨拶
13:10 報告者①(20分)
13:30 報告者②(20分)
13:50 報告者③(20分)
14:10 休憩(10分)
14:20 基調講演(60分)← 実際は14:45スタートに!!
15:20 質疑(5分)
15:25 主催者挨拶(5分)

こんなタイムスケジュールを受け取り、僕自身の担当は14時20分からの60分枠の講演だったとします。前半に3名の報告者から実践報告などがあり、それを受けつつ話すというような構成です。しかしながら、実際の講演の開始時刻は14時45分でした。

意外なところに時間泥棒が!

このときは、僕の話を聞きに来てくれた方々から、不満の声がたくさん寄せられました。60分枠が半分になったのですから、無理もありません。終了後、主催者の方が僕にこう言いました。

「報告者の方々のお話、どうしても長くなりがちなんですよね〜」

つまり、3名の報告者の話が延びたことが原因だ、と考えているのです。でも、実際は違いました。僕の手元のタイムスケジュールには、実際の時刻が記録されていました。

【実際のタイムスケジュール】
13:00 主催者挨拶 → 1303-1318 挨拶
13:10 報告者①(20分)→ 1320-1325(プロジェクター接続トラブル)、1325−1350(報告1、25分)
13:30 報告者②(20分)→ 1352-1412(報告2、20分)
13:50 報告者③(20分)→ 1413-1415(追加資料配付)、1415-1440(報告3、25分)
14:10 休憩(10分)
14:20 基調講演(60分)
15:20 質疑(5分)
15:25 主催者挨拶(5分)
15:30 閉会

この日、まず「偉い人の挨拶」があり、その人が10分以上話しました。この時点で8分オーバー。たかが8分ですが、冒頭の遅れというのはいきなり借金するのと同じです。1人目の報告者が話し始めた時点で、既に10分押し。つまり、この時点で既にどこかで10分削る必要があり、そのことを課題として認識する必要がありました。しかし、だれもそのことに気付いていません。

その後も報告者のPCを事前にプロジェクターに接続していなかったり、追加資料を配ったりしてじわじわと時間がかかり、ついには基調講演が半分にまでなりました。

注目していただきたいのは、報告者の話の所要時間です。3名の報告者は、持ち時間20分に対し、「20分ちょうどで話した人が1名」と「5分オーバーの25分で話した人が2名」でした。報告者の話そのものは、3名で10分しかオーバーしていません。30分押しの20分は主催者に責任がありました。報告者の話が長いのが原因だというのは、印象に過ぎず、勘違いなのです。

現場でどう対処すればよかったのか?

このケースについて、当日の現場でどう対処すべきかと、そもそも事前にどう準備すべきかを、順番にまとめましょう。

まず、スタートが遅れて、最初の報告者が報告を始めようとしている13時20分の時点で、主催者は、として以下のように問題を設定します。

「10分の遅れをどこかで取り戻す必要がある。どこを削るのか?」

と課題を認識し、判断する必要がありました。

このスケジュールであれば、僕なら基調講演と休憩を5分ずつ削って10分を捻出し、質疑を終了後に受けてもらえるように講演者にお願いしてバッファを5分キープします。そして、3名の報告者が時間ちょうどで終わってもらえるように、しっかりタイムキープします。

タイムキープするというのは、報告者任せにせず、しっかりと介入して時間内に終わるよう誘導することです。ゲストだろうと何だろうと、時間は守ってもらいます。話しすぎて恥をかくのは報告者ですから、主催者なら責任を負うべきです。
具体的には、報告を控えた2人目、3人目の方々に時間が押したことをお詫びして「15分ちょっとで一度終わらせてください」とお願いします。こういうのは嫌なものですが、ここで逃げてはダメです。ここで逃げるから、場を壊すのです。

事前にどう準備すればよかったのか?

次に、準備段階で何が出来たかを整理しましょう。

まずは、時間を積み上げて計算することと、動画でイメージすることです。

【タイムスケジュール】
13:00 主催者挨拶
13:10 報告者①(20分)
13:30 報告者②(20分)
13:50 報告者③(20分)

赤で示した部分ですが、報告者は「20分でお願いします」と言われていました。
僕はプロの話し手ですから、160分と言われれば160分ちょうどで話しますし、15分と言われれば15分で話します。でもこれはプロ限定で、普通の人はそんな訓練をしていません。だから、「出来るだけ持ち時間に近づけて」話そうとします。これは当然です。

20分と言われれば、15分で終わることもあるし、25分かかってしまうこともあります。そうした誤差を、計算に入れておく必要があるのです(その結果、報告者を3名でなく2名にするという判断もあり得ます)。

それから、このスケジュールにはバッファがありません。動画のイメージがないのです。

司会「それでは、Aさん、報告をお願いいたします」
Aさん「(前に出てきてマイクをもって…)ただいまご紹介いただいたAです。いまから20分、報告させていただきます。***きっかり20分間の報告*** 以上となります。ありがとうございました!」
司会「Aさん、ありがとうございます。◯◯だということが分かりました。それでは次に、Bさんに報告をお願いします。」
Aさん(資料などを片付けて退場)
Bさん(入れ替わって席に座る)

動画にするとこんな感じ。前後の司会のコメント、人の入れ替わり、機械の切り替えなどで、実際には時間がかかります。

ちゃんと記録して比較しよう!

自由な場づくりをするなら、時間通りに進める力をまずつけましょう。そのためには、準備段階で設定したスケジュールと、実際の記録を付き合わせて、ふりかえる必要があります。

そうすれば、次第に自分たちの場にとってのポイントが見えてきます。記録はだれかが担当して、ちゃんと分刻みでつけてみましょう。意外なところに時間泥棒がいて、時間以上のものを奪われているかもしれません。

(文・長田英史)